2011年9月6日火曜日

作業的公正の障壁(サーフィン後編)


1回海へ行った後、彼から「1人暮らしがしたい」というニーズが聞かれた。きっと海へ行くことによって欲求が少し満たされ、自分の生活へ目が向けられるようになったのだと思う。

そして、彼と話し合い、彼が1人暮らしに必要だと考えている「洗濯・掃除・買い物・料理」を練習していった。同時に、ケアマネと連携して1人暮らしの物件を探していった。


彼の1人暮らしへの想いが強いことをケアマネは知り動いてくれた。その結果、まず叔父さんとの同居生活を始めることとなった。


そうこうしているうちに、彼が発症してから1年が経とうとしていた。彼は1年経つ日に発症した海へもう一度行くと決めていた。そのことを定期受診している自宅から近所のDrに話をしたところ、Drは海洋少年団でボランティアをしていることもあり、彼を海に誘ってくれた。


そして2度目の海へ。Drと彼を海へ連れて行ってくれるマリンスポーツのインストラクターのご好意で僕も同行さしてもらった。(それを許してくれたスタッフにも感謝。)


彼と僕はインストラクターの見守る中、一緒に綺麗な海をシュノーケリングした。彼が楽しそうに泳いでいた姿、海ヘビを見て驚いていた姿が忘れられない。


インストラクターの方も驚くほど、彼は上手に片手・片足で海を泳いでいた。

Drとインストラクターに今後も参加することの承諾を得て彼と家路に着いた。

彼の1人暮らしに対する想い、サーフィンに対する想いが強くなっていく中で、周りの環境も徐々に整っていった。


彼は生活保護を受けていることと年齢が60代前半ということもあって、介護保険よりも自立支援法が優先されることとなりごきげんは卒業されたが、その後も保健所の方と役場の福祉課の方のご好意で僕は関わらしてもらっていた。


ごきげんを卒業されるときに、役場の方が保健所の方と僕を呼んで、彼の今後について情報共有する場を設けてくれた。その時に僕は彼にとってサーフィンとは唯一過去の自分に戻る方法であること、サーフィンに向かうことによって1人暮らしなど自分の生活に目が向けられるようになったこと、それは今後、機能訓練を続けることよりも効果的で価値があることなどを伝えた。どのくらい他職種の方に伝わるのか、自分が伝えられるか不安だったが、お2人はすごく真剣に納得しながら聴いてくれた。


ここで話し合われた方向性は、「彼がサーフィンができる(海に関わる)生活を取り戻す為に、1人暮らしや海へ関わる機会を支援する」ということになった。


彼の住居が決まり、1人暮らしが始まりそうな頃、役場の方から話があった。「出来れば彼が定期的に海へいける機会を作りたい。海へ行ったらDrやインストラクターの方がやってくれるからいいものの、海まで行く手段がない。自立支援法の移動支援で余暇に対して行った前例がないから上司には難しいと言われた。」とのことだった。


役場の方と僕は話を進めていく中で、前例がないなら作ってしまおう!という結論に至った。


僕が提出した資料には、サーフィンによって彼が自分の生活に目を向けられるようになったこと、彼が彼らしい生活・人生を取り戻す為にはサーフィンが唯一の作業であること、サーフィンという目標に取り組んでいくことで、彼は主体的に動くようになったこと、海で動くことは水治療法的な効果があり、身体機能面へのアプローチにもなること(ご協力いただいた学院のT先生に感謝します)などを記載した。その文章を持って役場の方が上司に必死でかけあってくれた。



その結果、沖縄県初の自立支援法で余暇支援(移動支援)を行えることとなった。(全国的にも珍しいそうだ)さらに役所の方は、利益にならない仕事だと理解しながらも協力してくれる事業所を探し出してきてくれた。(この移動支援は、彼を海まで連れて行った後、他の業務を行い、彼が海からあがる頃に迎えに行って自宅まで送り届けるという事業所側にとっては非効率的な内容である。)


現在、彼は1人暮らしをしながら、月2回海へ行き、海洋少年団の方達に見守られながら楽しんでいる。



彼は最初からずっとサーフィンを諦めなかった。

諦めない彼の周りには協力者がどんどん現れていった。

諦めなければ必ず手段は見つかる。

そして、作業的公正な社会を想って変革しようと立ち上がる人たちは必ずいる。

そのことを確信させてもらった事例だった。





作業的公正な社会を達成する為の真の障壁は、医学モデルにどっぷり浸かったなのだ。


2 件のコメント:

  1. 貪るように読みました。
    これぞ、作業療法の効果!ですね。
    「社会が動いた」というのが素晴らしすぎて、ぐうの音も出ません。

    医学モデルは社会に必要不可欠だと思いますが、
    医学モデルの次のステップも必要不可欠だと思います。
    (必要最低限の医学的管理を受けながらその人らしさを謳歌できるような)

    ぜひ、こんな作業療法を世間に広めてください。


    ところで、この記事も世間に紹介したくてウズウズしてしまうのですが、、、
    ダメですよね?鳥人OTさん的にも、事例の方の個人情報的にも。。

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  2. 思ったよりも過激なことを書いてしまったことに今気づきました。医学管理はおっしゃるとおり、必要最低限必要だと思います。
    事例の周囲のひとを惹きつける力がすごかったのだと思います。
    やっぱ個人情報まずいですよね・・・・・?

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