先月末から利用されているAさん。認知症を呈されている。
動いていないと落ち着かないようで、ずっと動き回っている。タバコを吸いに行ったり、花を見に行ったり・・・。環境の変化に対する不安もあって、当施設を利用する理由も娘が勝手に申し込んだと話されていた。そんなAさんに対して何ができるかを考えていた。
Aさんの作業歴を聴いていくと、軍で献立を考える仕事をされており、市町村役場に頼まれて一般の方に栄養に関する講習会を開いたほどプロフェッショナルだったようだ。その仕事を定年退職された後は、職業訓練校に通い、造園に関する技術と知識を取得し、10数年知り合いの造園業を手伝っていたということだった。
長い間、仕事に打ち込んでこられた様子をしっかりとした口調で僕に伝えた。
仕事を辞められてからは、自宅にいることが多くなり、楽しみは盆栽だけだ。
自宅では息子と妻の3人で暮らされている。その妻も認知症を呈されていることもあって、夫婦の折り合いは悪いということだった。いつも喧嘩ばかりで家には居場所が無いようだった。
僕は、当施設前の通りに並んでいる花壇が草だらけになっていることをAさんに話し、市民の為に通りを花でいっぱいにしませんか?と提案した。
するとAさんは、「いいですよ。やろう!しかし、その前に自分たちの建物の草を刈ったらどう?それをまず手伝うよ。」と話された。
さすがプロ!目の付け所が違うなと納得。まずは、うちの施設の草刈りをお願いした。
すると、あれだけ利用することに拒否的だったAさんは、利用日の前々日から「草刈りの用意をしているから迎えに来てね。」と電話されるほどに変化した。曜日の認識はさておき、ここでも作業の効果。
そして今日、草刈りの日となった。ベルト式のハサミ入れを腰に巻き、専用の帽子をかぶって午前中から担当のOTSと共に大量の草と格闘した。休憩を随時入れながら、結局午後の3時まで草刈りを行った。Aさんは額の汗をぬぐいながら、OTSと共に本当にきれいにしてくれた。さすがプロの仕事だった。
現場を見に来たスタッフ・利用者さんから次々と賞賛の声が聞かれるほどだった。
僕は、手伝いながらAさんに聞いてみた。「Aさんにとって仕事とはどういうものですか?」Aさんははっきりと答えた。「仕事は生きがいだよ!」
「次は市民の為に、通りをやりますか!」という僕の声に、Aさんは「いいですよ。やりましょう!」とはっきりと答えられた。
Aさんは、草刈りという作業を当施設のスタッフ・利用者さんの為に行うこと(仕事)で役割を得、居場所を確立したのだろう。
医学的に見るならAさんはただ徘徊をするひとで終わっていたのかもしれない。しかし、Aさんの作業に焦点を当てることによって、Aさんのキラキラ輝く姿を見ることができた。
これから地域の資源とコラボレーションをして、Aさんが社会貢献していくことをイメージしている。
Aさんの介入に対する僕なりのリーズニングをOTSに伝え、「これぞ作業療法!っていう本当に素敵な作業療法をしたね。」と伝えた。きっとOTSにも作業療法の魅力が伝わったことだろう・・・。だといいな。
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