脳血管障害に完治ってあると思いますか?
その答えを僕にくれた、ある利用者さん(Mさん)の話。
もう3.4年前になるだろうか。
Mさんは、60歳代男性で脳梗塞により左片麻痺を呈していた。歩行に関しては、T字杖を用いて見守り介助の中、屋外歩行を安定して行うことができていた。麻痺は中等度であった。
Mさんが利用され始めてすぐにCOPMを使用し、Mさんにとって大切な作業について聴取した。
すると、左上肢の機能回復と共に「釣り」という作業が挙げられた。Mさんは笑いながら「諦めていますけどね。」と話されていた。
釣りに関してMさんは、毎週釣り仲間と共に出かけており、唯一の楽しみだったと話された。そして、Mさんは釣った魚をさばいて妻や友人に食べさせてあげることが楽しみだったと話された。(ちなみにMさんは船を所有していた。)
Mさんは釣りという作業を通して、妻や友人を喜ばしていたMさんらしさを取り戻したかったのだと思う。
僕達は、沖釣りを友人と共に出来るようになることを目標に掲げ、その為の機能訓練を行うことを決めて取り組んだ。
介入していく中で、Mさんの「釣りをやりたいけど、諦めている」という発言の裏には、以前に1度船に乗ろうと試みたが乗れなかったという経験と、機能回復を求めて県外にCI療法を受けに行ったが適応外と言われて受けられなかったという経験をしていたことがわかった。
Mさんは釣りをするにあたり、まず、釣竿をしっかり固定できるかどうか、リールを巻けるかどうかが課題だと話された。補助具も用いながら、実際に釣り竿の使い方を練習していく中で、徐々に上達していった。
僕は釣竿の操作が上手になったことを伝え、次の課題にも同時に取り組んでいくことを提案した。Mさんが次に不安に思っている課題は「船に乗ること」だった。
僕は、先輩方に相談し協力してもらい、実際に船に乗ることにした。Mさんは当日、夫婦で来られた。Mさんは「少し不安だ」と話されていたので僕も少し心配したが、実際には難なく乗船できた。さらに先輩OTの計らいでMさんは船を操縦された。
Mさんも僕達も達成感に包まれた。Mさんはこの時のことを「命の洗濯をした。」「できないと思っていた釣りが、できるかもしれないと思えた。」「諦めないといけないと思っていたものが、諦めなくてもいいんだと思えた」と語った。
その後、船に乗って見えてきた課題を話し合い、それまでと変わらず介入していたのだが、突如Mさんから「昨日、妻と友達と一緒に船に乗って釣りに行ってきた。」と話があった。
僕は驚いたが、その後二人で大喜びした。そう!これが求めていた姿なんだ!心の中で叫んだ。
そうこうしているうちに、Mさんは友達と共に2回目の釣りに出かけて、「10匹くらい釣った。」と嬉しそうに話されていた。
その後、Mさんとは実際に釣りに行って得られた課題をクリニックで練習するといった、理想的な形をとっていけた。
最終的にMさんは、「案ずるより生むが易し」「過去の7~8割釣りができれば、完全に治ったと思える。」と話され、ごきげんを卒業されていった。
Mさんは僕に「脳血管障害に完治はあり得る!」ということを教えてくれた。
そして、完治する為には作業が必要なことを教えてくれた。
作業に焦点を当てた作業療法はクライエントとその家族、僕らを含めた周囲の皆を幸せにすることを僕は確信した。
このエピソードを聴くたびに、
返信削除素晴らしいなぁと感じます。
理想的だなぁと想います。
まぶしいなぁと思います。
いつか自分も、会心の出来のアプローチがしたいです。
genkitaiさん
返信削除初めてコメントをいただいて、どのように返していいのかわからず、あたふたしました。
ありがとうございます。
僕はこの方からたくさんのことを教わりました。たくさんの喜びをいただきました。
恩返しをたくさんの方にしたいなと思います。
genさんも一緒にしましょう♪